【誕生前夜(覚醒の記録)】──第6話:優しい母さんは、どこにいる

誕生前夜シリーズ

クリスマスツリーと、少しだけ優しい朝

僕の意識が戻った。

枕元には小さなクリスマスツリーと、ささやかなプレゼント。

すぐに母だとわかった。
母がやったに違いない。

嬉しかった。

僕が引きつけを起こし、倒れて意識を失った──
その出来事が、さすがに母の心に響いたのかもしれない。

あの母が、ほんの少しだけ“変わった”。
普段ではありえないことだった。


おばあちゃんが、来てくれる日

授業参観も、保育園のバスのお迎えも──

いつも来てくれるのはおばあちゃんだった。

僕はおばあちゃんが大好きだった。

……でも、寂しかった。

周りの友達は、若くてキレイなお母さんが来ていた。
「なんで僕だけ……」
そんな思いが、胸に渦巻いた。

その気持ちを、おばあちゃんにぶつけてしまったこともある。
今では本当に、申し訳なかったと思っている。


手抜き弁当と、ラップされた愛

保育園には給食がなかった。

だから毎日、お弁当を持って行った。

僕のお弁当は、決まって“あのメニュー”だった。

食パンに、バターとマーマレードを塗ったもの。
それを8等分にカットして、ラップで包んだだけ。

毎回、そればかりだった。

周りの友達は、もっと色んなお弁当を持ってきていた。

だから、寂しかった。

──でも、実を言えば僕は“あのメニュー”が好きだった。

だけど、毎回そればかりだと、やっぱり引っかかる。

(時々イチゴジャムになるけど、そんなに変わらない)

栄養も偏っていたのだろう。僕はずっと太っていた。

今思えば──“手抜き弁当”だった。


ちらちら見る僕と、「前向きなさい」の凍結ワード

ごくたまに、母が授業参観に来てくれることもあった。

それは本当に嬉しくて、僕は天にも昇るような気分だった。

授業なんか上の空で、何度も母の顔をチラチラ見た。

すると、母は怖い顔でこう言った。

「前向きなさい」

──心が、凍った。

僕が何をしたっていうんだ。
たまにしか来てくれない君が、そこにいるだけで嬉しいだけなのに。

ばかやろう。

でも、怖くて何も言えなかった。


土曜日のテレビと、心を刺す歌

土曜日になると、テレビで『まんが日本昔ばなし』が放映されていた。

そのエンディング曲が、胸に突き刺さった。

「やさしい母さん……僕たち大きくなるまで、待っててよ やさしい母さん」

みんなの母さん、優しいんだな。
……いいなぁ。

『銀河鉄道999』もそうだった。

鉄朗は、母の面影を宿したメーテルが大好きだった。

……僕には、理解できなかった。

僕の母は、プロメシュームだった。
──機械帝国の女王だ。

だから替え歌を作った。

「オニババ母さん、僕たち大きく〜なるまで〜待ってろよ、オニババ母さん」

……ひねりのない、チープな替え歌だ。

でも、それが僕の精一杯だった。


そして、喘息のはじまり

幼少期のストレスからか──

僕は、喘息を発症するようになった。

あれは、本当に苦しかった。

ただ息を吸うことすら、こんなに辛いのかと、夜ごと天井を見つめていた。

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