クリスマスツリーと、少しだけ優しい朝
僕の意識が戻った。
枕元には小さなクリスマスツリーと、ささやかなプレゼント。
すぐに母だとわかった。
母がやったに違いない。
嬉しかった。
僕が引きつけを起こし、倒れて意識を失った──
その出来事が、さすがに母の心に響いたのかもしれない。
あの母が、ほんの少しだけ“変わった”。
普段ではありえないことだった。
おばあちゃんが、来てくれる日
授業参観も、保育園のバスのお迎えも──
いつも来てくれるのはおばあちゃんだった。
僕はおばあちゃんが大好きだった。
……でも、寂しかった。
周りの友達は、若くてキレイなお母さんが来ていた。
「なんで僕だけ……」
そんな思いが、胸に渦巻いた。
その気持ちを、おばあちゃんにぶつけてしまったこともある。
今では本当に、申し訳なかったと思っている。
手抜き弁当と、ラップされた愛
保育園には給食がなかった。
だから毎日、お弁当を持って行った。
僕のお弁当は、決まって“あのメニュー”だった。
食パンに、バターとマーマレードを塗ったもの。
それを8等分にカットして、ラップで包んだだけ。
毎回、そればかりだった。
周りの友達は、もっと色んなお弁当を持ってきていた。
だから、寂しかった。
──でも、実を言えば僕は“あのメニュー”が好きだった。
だけど、毎回そればかりだと、やっぱり引っかかる。
(時々イチゴジャムになるけど、そんなに変わらない)
栄養も偏っていたのだろう。僕はずっと太っていた。
今思えば──“手抜き弁当”だった。
ちらちら見る僕と、「前向きなさい」の凍結ワード
ごくたまに、母が授業参観に来てくれることもあった。
それは本当に嬉しくて、僕は天にも昇るような気分だった。
授業なんか上の空で、何度も母の顔をチラチラ見た。
すると、母は怖い顔でこう言った。
「前向きなさい」
──心が、凍った。
僕が何をしたっていうんだ。
たまにしか来てくれない君が、そこにいるだけで嬉しいだけなのに。
ばかやろう。
でも、怖くて何も言えなかった。
土曜日のテレビと、心を刺す歌
土曜日になると、テレビで『まんが日本昔ばなし』が放映されていた。
そのエンディング曲が、胸に突き刺さった。
「やさしい母さん……僕たち大きくなるまで、待っててよ やさしい母さん」
みんなの母さん、優しいんだな。
……いいなぁ。
『銀河鉄道999』もそうだった。
鉄朗は、母の面影を宿したメーテルが大好きだった。
……僕には、理解できなかった。
僕の母は、プロメシュームだった。
──機械帝国の女王だ。
だから替え歌を作った。
「オニババ母さん、僕たち大きく〜なるまで〜待ってろよ、オニババ母さん」
……ひねりのない、チープな替え歌だ。
でも、それが僕の精一杯だった。
そして、喘息のはじまり
幼少期のストレスからか──
僕は、喘息を発症するようになった。
あれは、本当に苦しかった。
ただ息を吸うことすら、こんなに辛いのかと、夜ごと天井を見つめていた。